研究班の紹介

                       

 理論研究班

  班代表 富永茂樹(人文科学研究所

 『≪ 子供 ≫の誕生』という日本語版のタイトルがあまりにもよくできていたせいもあって、専門家のあいだでさえあまり気づかれることは少ないのですが、 近代家族の小規模化と情緒化の過程を仔細に論じる『アンシァン・レジーム下における子どもと家族生活』のほとんど終わり近くになって、 著者のアリエスは同じ時期に公共空間が衰退していったことに読者の注意を向けながら、「家族の感情と社交性とはあい容れないものであり、一方は他方を犠牲 にしてのみ発達するのだと考えたくなる」といいます。つまり親密圏と公共圏とは、たがいに裏と表になって対をなしているものなのです。

 それではこのつながりはどのようなものなのでしょうか。裏と表とはいっても、それはけっしてコインの両面のように単純なものではなく、両者のあいだには 性質や規模の点で、切断や連続からなる複雑な関係が存在していることが予想されます。歴史(時間的)研究やフィールド(空間的)研究から得られる知見をま じえながら、このあたりの問題にとりくむことで、理論研究の道に入っていくことができるかもしれません。そのために、さしあたりは、これまでさまざまな立 場から親密性と公共性をめぐって展開されてきた議論の収集・整理が有効な手がかりになるかと考えています。

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 歴史研究班

  班代表 小山静子(人間・環境学研究科)

 歴史研究班では、親密圏と公共圏の再編成という問題を歴史的な視点で考えることになりますが、それは、言葉を代えていえば、親密圏と公共圏はどのような過程を経て、いかなるものとして成立したのか考察するということです。たとえば、親密圏という言葉で真っ先に思い浮かぶのは近代家族ですが、近代家族はどのようにして成立し、社会や国家といかなる関係性を切り結んでいたのでしょうか。そのあり方は、それぞれの地域の歴史的・文化的状況によってどのように異なっていたのでしょうか。 そしてそれは歴史とともにどのように変化してきたのでしょうか。

 親密圏と公共圏の再編成のあり方を考えるためには、 今、どのような状況にわたしたちがいるのか、それはどのようにして生じたのかを知らなければなりません。 そのことを通して、現代が抱えている課題も見えてくるでしょうし、現代という時代を相対化することが可能になると思います。 迂遠なように見えるかもしれませんが、みなさんと一緒にこの問題を考えていきたいと思います。

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 フィールド調査班

  班代表 秋津元輝 (農学研究科)

 家族を中心とする親密圏が、 それを取り巻く公共圏との関係の中で、今まさにどのように再編成されようとしているのか。そうした、今、ここの動向を探り、21世紀社会の展望へとつなげていくのがフィールド調査班の使命です。  

 親密圏が制度としての家族に代表されることはもちろんですが、親密圏はメタファーとしても社会再編において重要な役割を演じると考えられます。対象地域もアジアを拠点として全世界を視野に含めています。なので、今、ここを扱おうとしており、家族あるいはメタファーとしての家族関係を対象とし、 その再編を視野に含めているならば、貪欲に調査班に取り込んでいく方針です。

 ということは何でもありなの、という声も聞かれそうですが、皆さんから出された公募研究内容と対話しながら、しだいに方針を緩やかに固めていこうと考えています。

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 数量調査班

  班代表  岩井八郎 (教育学研究科)

 親密圏と公共圏の再編成というテーマには、多様な問題群が含まれています。数量調査班では、多様なテーマに対応できて、 皆さんが共有できるような数量的なデータを作成し、蓄積することからスタートします。そして、データ分析のスキルを高めて、学術論文を量産していただける ことを期待しています。

 1.既存統計から見る親密圏と公共圏の動向

 1970年以降の既存統計から、アジア諸国を中心に各国別に様々な指標を収集、整理してデータベースを作成する作業をします。 出生率の変化、初婚年齢の変化、女性の就業率の変化などから始め、農業人口、中等教育・高等教育進学率、失業率、携帯の普及、 アルコール消費量・・・様々な指標が考えられます。おそらく、メンバーが論文を作成する際に、たとえフィールド調査を中心にする論文であっても、 必要となる統計があるでしょう。メンバーの方々から、ご自分の研究で使われた統計を提供していただけるよう呼びかけるかもしれません。ユニークなデータセットができればと考えています。

 2.アジアの大学生調査

 多くのメンバーは、数量的調査の経験がほとんどないように思います。大学生調査なら、質問紙の作成や調査データの整理、分析など、 気軽に調査のプロセスに参加できると思います。日本でいえば、「ポスト・ロストジェネレーション」の調査になるでしょう。 海外拠点の大学にお願いできるならば、データ収集はさほど難しくないと思います。結婚観、キャリアの期待、メディア利用、 ポップカルチャー、愛国心など、多くの調査項目が考えられます。自分で調査項目を作って、若者世代の比較研究をしませんか。

 3.既存調査データの2次分析

 数量的な調査データは、近年、一般公開が進み、多くの研究者が2次分析のために利用できるようになっています。日本家族社会学会が実施した全国家族調査も、 私が関係していますJGSS(日本版総合社会調査)もSSM(階層調査)も利用できます。またICPSR(Inter-university Consortium for Political and Social Research) が世界の数量的データのアーカイブになっており、各国の様々な数量調査データを提供しています。これらを利用して、 数量分析のスキルを高め、ワーキングペーパーを書くようなワークショップを開きたいと考えています。テーマはかなり自由に設定できます。 また、数量分析のスキルを高めるための、講習会が国内、海外でも多くありますので、そこへの参加も支援します。

 その他にも、「アジアの家族調査」としていくつかの国で、調査を実施する企画もあります。計画が具体化したら、皆さんに参加を呼びかけるでしょう。まずは、1と2について活動を開始します。

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 政策研究班

  班代表  新川敏光(法学研究科)

 政策班では、東アジアにおける親密圏と公共圏の変容を政策変化の観点から分析していくことが中心テーマになります。具体的には、社会保障政策、家族政 策、労働市場政策について、工業化と民主化を経験した国々(もしくはそれに準ずる地域)を中心に、今日工業化によって急激な社会変化を経験している中国な どもできれば視野にいれ、個別具体的政策展開と相互の関係性を調べ、最終的には、国境を超えた市民権、市民社会の可能性を探ってみたいと考えています。

 このような研究を進めていくためには、国内各分野の研究者の参加はもとより、他のアジア諸国の研究者の協力が不可欠です。とりわけ次世代研究者が率先して、アジアにおける政策研究のネットワークを構築してくれるように期待します。             

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