次世代ユニット研究「生き延び研」および「継承・生き延び研」 研究発表会
◎ 発表タイトル:多文化グァテマラ現代社会と先住民女性
─家族再生産労働と観光生産労働との関係の再検討から
話者:中田英樹(明治学院大学)
日時:2012年6月11日(月曜日)13:00から15:00
場所:京都大学文学部新館地下1F小会議室
※参加される方には、本発表がベースにする論文を事前に配布しております。
ご希望の方は、g13tra*prime.meijigakuin.ac.jp(*を@に変えてください)へ、御連絡頂きたく存じます。
発表趣旨
グァテマラにおいて先住民女性は、家を「親密圏」とするならば、そこに長らく閉じこもり、表の通りに出てこない存在とされてきた。彼女らは、歴史を通じて、各々家の裏勝手口を出たところの、陽のあたらない裏庭にある、選択場で服を揉み、脇に積まれたトウモロコシを引いて調理をし、そのよこで子供は手伝い、伝統織物を織ってきた。
この裏庭で展開される彼女らの生は、はたして表を出たところに広がる「公共圏」の構造変容に、はたしてどれほど整合的に連動したものなのか。本発表では、まったく異なった位相にて組み替えられてきた「家庭内再生産労働」における裏模様を、グァテマラ現代史を流れてきた「公共圏」という表模様から透かして眺め、そこに現れる相違を議論したい。
先住民女性を対象にした研究は、ひとつに女性としての社会的立場の不公平改善を考える。一層熾烈化する新自由主義の格差社会のなか、田舎から出てきた家政婦がいかに厳しい生活を強いられているか。そしてさらに加えては、夫とは異なり子育てや家事を日の出前に起きてやっているか。
先住民を対象にした研究は、一方で、先住民としての社会的尊厳の回復を「解放」と見なす。内戦下で虐殺の対象となった先住民の、さらに性暴力の対象ともなった女性が、先住民としてこれまでの不正義を告発し、先住民衣装を着たままでも差別されることなく「公共圏」にて発言し、伝統織物であれ、運動であれ、企業の職場であれ、公平に活動を展開していくことが模索される。
だがこの両研究は、それぞれ分断され相互の交通を欠いたまま展開されている。それは日本においても、外国人労働者を対象にした議論と、若者の貧困といった格差社会に関する議論が、まったく相互に越境することはないことと、合同の構図にある。本発表が、グァテマラ先住民の貧困家庭における女性という、国家であれ、市場であれ、さらには地域社会で様々な「草の根」の声が生まれるコミュニケーションの場であれ、いずれからも夫を表に出して、裏で家事労働を展開してきた、彼女らの生のダイナミズムに、考察の視点を置くのは、この点ゆえにである。公には分断されている先住民女性という対象が、その裏模様において、この両領域を横断する生を裏庭で紡いでいるからである。
主催:京都大学GCOE次世代ユニット研究「生き延び研」および「継承・生き延び研」