「ハーグ条約」問題の国際社会学的研究の意義:女性結婚移住者と構造的な社会格差への視点

COE研究員 濱野健

グローバル化の進展は、日本を含めたアジアの家族を大きく変容させ、単一の文化的・社会的・法的な枠組みで家族の問題を論じることはますます困難になった。その最たる例である国際結婚には、婚姻や家族観に対する当事者間の文化的・社会的通念の差異のみならず、その(家族)関係を規定する法制度に対しても異なる言説が存在する。

この国際結婚のジレンマは、昨今の「ハーグ条約」問題に著しい。夫婦関係が終焉した移住者が子どもを連れて本国へ帰国、そのことが現地配偶者の子の監護権の侵害および国際的な子どもの「奪取」となり、子の監護を巡る私的な問題の早期解決は二国間の外交問題にも発展している。現在、日本政府は(国際的な子どもの奪取に関する)「ハーグ条約」への批准に換えて、こうした家族のグローバル化に伴う問題の解決をはかろうとしている。

家族の越境とその離散が増加する中、グローバルかつ普遍的人権に配慮した国際法による事態の解決は急務である。その理解の上で、私は、結婚移住者が国際的な子どもの「奪取」につながる決定的な動因となる、定住先で直面する(した)社会的格差に注目した研究を実施している。そこには、今日の国際移動におけるジェンダー格差の視点も不可欠である。その成果は、本件の構造的な問題の所在を明らかにするだけではなく、やがては越境的で多様化する家族を包摂しうるグローバルな「親密圏」の構想に寄与できればと考えている。
 

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